ポンちゃんの骨

 

 スッポンは専用の養殖場があるくらい、食べ物としての人気がある生き物だ。


 コラーゲンが豊富で、美容や健康食品としてもよく売られている。

 高級料理店でも、取り扱われることが多いように感じる。


 野生のスッポンも、地域によっては捕って食べる習慣があると聞く。


 私は今までスッポンのお吸い物を飲んだことはあったが、丸ごと食べる「すっぽん鍋」は食べたことがなかった。 

 いつかは食べたいと思っていたが、なかなか機会に恵まれずにいた。

 好きだからこそ、食べる。

 亀のいのちを、頂いてみたかった。


 ところが、数か月前。

 ひょんなことからスッポンを食べる機会に恵まれた。  

それは久しぶりに再会した、カメ捕りの師匠がきっかけだった。


 師匠が素手でスッポンを捕まえられることは知っていたが、 しかし、捌くことまで出来るとは……。



 ある日、師匠が 「すっぽんを捌いたことがある」「実家にいるとき、父親に教わった」 と言ったことがきっかけとなり、 スッポンを何とか入手して、後日食べようということになった。

 


まもなくして、スッポンが我が家にやってきた。

 体サイズが小さい、若い個体だ。

甲長は10cm程だろうか。


 泥抜きをするため、何日かバケツで飼育するのだが、毎日眺めていると愛着がわく。

 このスッポンをポンちゃんと名付け、毎日水を取り替えた。


 ポンちゃんは性格が大人しく(スッポンって大人しい性格の子が多い気がする)、滑らかで左右均一な、美しい容姿をしていた。

 この子を、食べる。 いただくんだ。 

 そう意識して、生きているポンちゃんを日々観察していた。




 いざ、すっぽん鍋を食べる日。

 その日は4~5人のメンバーが集まった。

 主に研究室の先輩と後輩で、みんな生物学を専攻し研究する、経験・知識がともに豊富な「生き物屋」だ。


 師匠に教えてもらいながら、ポンちゃんを捌いていく。

 仕留め、血抜きを行う。


 比較的小さな個体であったが、甲羅をはがす際はそれなりに強い力が必要だった。

 みんなで協力しながら調理をすすめる。

 胆のうをきれいに除去して、食べられる部位を切り分けていく。

 できるだけ、可能な限り、食べるために。



 「「「いただきます」」」




 味は、部位によって全然違った。

 肢の筋肉は鶏肉にちかいような味。

コラーゲンでぷるぷるの甲羅。

 レバーは、ものすごく亀臭かった。



 私は食事が始まる前、みんなにあるお願いをしていた。

 骨は出来るだけ全部、残してほしい、と。


 この骨で、ポンちゃんの白骨標本を作ろう。

 食べるだけじゃなくて、かたちを残そう。

 そう考えて、みんなにお願いをしていたのだ。




 ポンちゃんは、きれいに食べられた。

 そして、私の手元にはポンちゃんの骨が残った。


 骨には、小さな肉片や軟骨がくっついていた。

 これらの骨を体の部位ごとに水切りネットに入れる。

 バケツに水を張り、骨を全部入れてポリデントを落とす。

 様子を見ながら、水を替えてはポリデントを落とす。

 しばらくして肉片が溶け出してきたら、歯ブラシでタンパク質類を磨き落としていった。


 こうして、ポンちゃんの骨はきれいさっぱり。 


 この骨たちを、一つ一つ、並べて見比べてみた。   



    

対になる骨、小石みたいな骨、平たい骨、縁がギザギザした骨…。


 骨をじっくり見てみると、骨から学べることがたくさんある、ということに気がつく。

 また、骨がたくさんの疑問を呼び寄せることにも。


 ここでふと、当初計画していた骨格標本の作成について考えた。

 あ、しまった…。

 骨を分解する前に写真を撮っておけばよかった…。


 そうでなければ、骨格標本をつくるためのパズルのピース(骨)があまりにも細かくて、難しすぎる…。 


 そもそも、体全部の骨がそろっていない(誰か骨まで食べちゃった人がいるらしい)。

 骨格を組み立てるのは困難であることが分かり、体の部位ごとに骨を整理して、保管することにした。



 そして今、研究室の私の机上には、ポンちゃんがいる。


 いつでもすぐに、スッポンの骨を観察できるようになっているのだ。

 それはカメ類の体の構造を理解するための、何よりの教材となってくれている。


 カメの体についてや、骨について。

 私には、まだまだ分からないことだらけだ。


 これからもポンちゃんから学ぶことが、たくさんありそう。



 ポンちゃん、本当にありがとう。 




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亀に踏まれて -KAME HACK-

主に「野生の亀」について探求しています。 現在、西表島で研究中。