カメ捕りの師匠

  

私には、カメの捕獲方法を教えてくれた師匠がいる。

「カメを捕る方法=罠を仕掛ける」しか知らなかった私は、彼と初めて川へカメ捕りに行った時の衝撃を、今でもよく覚えている。



 彼は研究室の先輩だ。

アリと植物の関係を研究していた彼との出会いは、正直よく覚えていない。

 

なぜなら、カメを通した出会いではなかったからだ。

 ただの研究室の先輩、という印象でしかなかった(すごくお世話になっているのに、ごめんなさい…)。



 私がB4生(学部4年生)なりたての2017年4月のこと。

本格的にカメの研究を始める上でまず最初に、指導教員の先生と私で、近所のカメを探すためのサイクリングへと出かけることになった。

 「その日、時間のある人は一緒に春のサイクリングを楽しみましょう」

 と、研究室の先輩方も誘って。


 結局その日は、先生、M1(修士1年生)の先輩二人、私の計四人で出かけた。


 一日中川沿いをサイクリングしたが、中々カメを見つけることができず、夕方になってしまった。

 諦めかけながら自転車を漕いでいた帰路で、先輩が突然、急ブレーキをかけた。


 「あ、カメだ」



 それから四人で見つけたカメを観察していると、カメを発見した先輩が、 

「子供のころ、川でニホンイシガメを捕って遊んでいた」 

「網は使わない、素手で捕ってキャッチアンドリリースしてたよ」

 「だから、カメが居そうな場所はなんとなく分かる」 と。




 「「「ええええええ」」」




 身近なところにカメ捕り名人がいた衝撃。


 そしてこの会話が、彼にカメ捕りの方法を教わるきっかけとなった。  


 


  6月。

 本当に素手でカメが捕れるのか? 


半信半疑だったが、玉網とカメを入れるバッグを持って、私の調査地である川へと先輩と一緒に向かった。


川の深さは膝下くらい。

所によっては深い場所があり、お腹くらいまで水に浸かるような場所もある。

流れる水は透き通っていて、川底が見える。

フナやアメリカザリガニ、小魚が動いている。


 …がしかし、カメは見当たらない。



 そもそも、カメだって人間がいることに気が付くだろうし、そしたらすぐに隠れるだろう。

 ていうか、見えないカメをどうやって探すんだ?


 振り返って先輩がカメを探す姿を見てみると、先輩は川岸の境、草や流木で中が見えない場所に手を突っ込んでいた。


 ????? 


 確かに、こちらから見えない場所なら、向こう(カメ)からも見えない。

 なるほど、そういう場所に 同じように川岸の見えない場所に手を突っ込む。

 

うぎゃあ?!?!?!!!



 ヌルっとした感触とビチャビチャッ!という水の中で暴れる音。


 ナマズを触ったようだ。


 …怖い。

見えない場所に手を突っ込むのって、めちゃくちゃ怖い…。


 ビビッて全然手を突っ込めない私と、ガサガサ手も足も突っ込んで前進ずぶぬれになる先輩。


 おおおぉぉ…すげぇ…。 

 

  そんなふうに思っていたら、ニホンイシガメを二匹、両手に掴んでいた。


 …ミラクル。 


 それからポンポンとカメを捕り続け、 最後は足で踏んだ「感触」でカメを捉え、水草の中に埋まっていたクサガメを捕まえた。


 もうそれは、本当に、魔法みたいだった。


 なぜ足の裏の感触でカメがわかるのか聞いてみると、 「踏めばわかる」の一言。

 実際に水の中で踏んでみたが、全っ然わからない。

 まじで、意味わからない。


 五感を使ったカメ捕り。 

その姿に完全に魅了された私は、 「自分も素手でカメを捕ってみたい!」と弟子入りを決めた。




 あれから、3年が過ぎた。

 本当に、本当に不思議なご縁で 今年はもう、すでに4回。


 再び師匠とカメ捕りに出かけている。

 毎回、必ずカメを捕らえるその手腕は健在で、そして圧倒される。


 私のハンター力なんて、まだまだひよっ子だ。

 カメの研究者としてジェラシーもあるけど、いつも頼りになる師匠。



 カメ捕りにご興味のある方はぜひ、師匠の技を間近で見て、体験してほしいと思う。

 そうすればきっとあなたも、弟子入りしたくなるのではないだろうか。




 #カメ #亀 #師匠 #研究室 #先輩 #野生児 #野生 #川遊び #イシガメ #弟子入り

0コメント

  • 1000 / 1000

亀に踏まれて -KAME HACK-

主に「野生の亀」について探求しています。 現在、西表島で研究中。